皮膚の上の菌:常在菌
ここ数年、腸内細菌という言葉をよく聞くようになったかと思います。ヨーグルトなどで腸内細菌を整えることが健康維持にも注目されています。
実は皮膚にも腸内と同様沢山の菌が存在します。これらの菌は、人や犬の皮膚の健康を維持するのに大事な皮膚バリアに貢献していることが分かってきました。皮膚の上に存在して皮膚バリアに貢献する菌たちを常在菌(じょうざいきん)と呼びます。
これら常在菌は何種類も存在し、一定の数を保ちながら共存することで、他の病気の原因になるような菌やアレルゲンによる皮膚トラブルを防いでいることが分かってきています。
膿皮症:原因
常在菌のバランスが崩れると一部の菌が極端に増えてしまい皮膚トラブルを起こします。細菌が増殖して皮膚に感染することで引き起こされる皮膚トラブルを膿皮症と呼び、この膿皮症の原因菌はブドウ球菌です。
常在菌のバランスを崩す原因はいくつかあります。
もともと犬の皮膚は人間と比べると表皮が薄い、細胞間脂質が乏しい、皮膚のpHが高いといった特性があり、これらは犬が膿皮症を発症しやすくなる要因になります。そこに上記のような常在菌のバランスを崩す要因が重なると、さらに膿皮症が発症しやすくなるのです。例えば犬アトピー性皮膚炎では、もともと皮膚の菌のバランスが崩れやすいことが分かっています。そのため、一度は犬の膿皮症を治療して治ったように見えても、すぐに再発してしまうことが多いのです。
膿皮症:症状
膿皮症は細菌が表皮や毛穴に炎症を引き起こす皮膚感染症であり、発症すると次のような症状が見られます。
膿皮症の症状は、その他の皮膚トラブルと似ていることがあります。そのため、犬の皮膚に異変を感じたらすぐに動物病院を受診して、治療してもらうようにしましょう。
膿皮症:治療
治療は原因となっている増殖しすぎた菌を減らすために、抗生物質、スキンケア、環境管理を組み合わせて行います。治療により皮膚の状態が改善したように見えても一時的に菌の数が減ったにすぎず、また悪化することもよくあります。皮膚の環境が良い状態を維持できるよう、スキンケアを続けていくことが大切です。
① 抗生物質
菌の数を減らすために抗生物質の外用薬や内服薬を使用します。膿皮症の症状が一部分に留まっている場合には外用薬、全身や皮膚の広い範囲に膿皮症の症状がみられた場合には内服薬を処方されることが多いでしょう。外用薬には軟膏、クリーム、ローションなど色々な種類があり、症状の程度や場所によって使い分けます。
抗菌剤の使用については、獣医師の診療を受けて処方された薬の用法用量をきちんと守ることがとても大切です。飲ませるのを忘れたり、皮膚の状態がよくなったと自己判断し、薬の使用を途中でやめてしまうことは、膿皮症の症状の再発や悪化を招くことがあります。結果的に薬を飲む期間が延びたり、人の医療でも大きな問題になっている「薬剤耐性菌」が出現してしまい抗生物質が効かなくなったりする危険性もあります。
内服薬の中には、犬が好む味をつけて、飼主様の“薬を飲ませる負担”と犬の“薬を飲む負担”を減らすために配慮された動物用の薬もあります。動物用の薬は、動物での使用効果がきちんと実証されているというメリットもあります。内服薬の投与について不安がある場合は、獣医師に相談しましょう。
② スキンケア
薬用シャンプーには様々な製品があり、それぞれに特徴的な作用があるため、その犬に合わせて使い分けます。抗菌性シャンプーなどの外用剤は皮膚をやや乾燥させる傾向にあります。また、膿皮症の犬の皮膚は皮膚バリアが弱い傾向にあるので、低刺激性のシャンプーや皮膚バリアの成分であるセラミドなどを配合した保湿液やコンディショナーと組み合わせることをお薦めします。
シャンプーの方法はこちら
保湿剤の使い方はこちら
③ 環境管理
膿皮症は高温多湿な時期に増加する傾向があるため、本格的に夏が始まる前からクーラーを使い始めるなど、生活環境の温度と湿度の管理にも注意を払ってあげましょう。
膿皮症:健康な皮膚を維持するために
犬の皮膚はもともと膿皮症になりやすい特性がありますが、そこに犬アトピー性皮膚炎のように皮膚の状態が悪くなるような要因が重なると、さらに悪化する危険性があります。
そのため、治療によっていったん犬の皮膚トラブルが改善したら、膿皮症の再発を予防するためにもスキンケアを継続してあげることが大切になります。最近の犬のスキンケアでは人のスキンケアと同様、保湿だけでなく皮膚の常在菌のバランスを整えることにも注目が集まっています。このような菌のバランスに注目したスキンケア製品なども開発されていますので、検討してみてはいかがでしょうか。