犬の皮膚:バリア機能
犬の皮膚はヒトよりも薄く、非常にデリケートです。
それにもかかわらず、様々な種類の菌やアレルゲン、紫外線など、さまざまな外部の刺激から犬の体を守ってくれています。また、皮膚には体温の変化、乾燥などから体を守るだけでなく、内側からの潤いをキープする役割もあります。こうした役割を、皮膚のバリア機能といいます。
しかし、この皮膚のバリア機能が弱くなると、皮膚は乾燥し、また外部の刺激から体を守ることができず、皮膚トラブルを起こしてしまいます。よくある皮膚トラブルとしては、アレルギー性皮膚炎、皮膚感染症、脂漏(しろう)症などが挙げられます。
皮膚のトラブルが起きたら:原因を探る
皮膚のトラブルは、動物病院への来院理由のトップです。
(出典:ワンちゃん・ネコちゃんの通院理由トップ5 アニコム ホールディングス株式会社)
皮膚トラブルの症状には痒み、フケ、赤み、脱毛、においといったようなものがあります。特に痒みは犬にも飼主様にもストレスが大きい症状となります。 しかし、その原因は、ノミなどの寄生虫による痒みやアレルギー、行動学的な問題までさまざまです。
そのため、痒みが見られた際には、獣医師はできる限り多くの情報を収集し、適切な検査やより高度な診断方法を使い、原因を正確に特定する必要があります。その診断結果に基づき、獣医師は適切な薬や塗り薬、シャンプーやペットフードを処方します。
比較的治療期間が短く、治療の効果が早くみられる皮膚のトラブルもありますが、生涯にわたり付き合っていく必要のある皮膚のトラブルもあります。その代表的な皮膚トラブルがアレルギー性皮膚炎です。
アトピー性皮膚炎:よくみるアレルギー性皮膚炎
アレルギー疾患は皮膚トラブルとして最も多く見られ、その原因は色々あります。一般的にみられるアレルギーとして、犬アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、ノミアレルギーなどがあります。この中でも、犬アトピー性皮膚炎はよくみられるアレルギー性皮膚炎です。
犬アトピー性皮膚炎には次のような特徴が挙げられます。
① 犬種
アトピー性皮膚炎になりやすい犬種として、日本では柴犬、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シーズー、フレンチ・ブルドッグ、レトリバー種などが知られています。もちろん、これ以外の犬種でもアトピー性皮膚炎にならないわけではありません。
② もともとアレルギー反応を起こしやすい体質(=アトピー体質)
アトピー性皮膚炎は、ひと言でいうと“とても痒い皮膚病“です。遺伝的な要因が大きく、生後6ヶ月〜3歳くらいの若い頃から症状が出始めます。また、年齢を重ねるごとに痒みはひどくなる傾向にあります。
③ 皮膚バリア機能が弱い
これは、①や②に該当する犬にあてはまることですが、こうした犬の皮膚のバリア機能は、そうでない犬よりも弱いことが分かっています。そのため乾燥しやすく、外部の刺激から体を守ることができず、痒みなどの皮膚トラブルを起こしやすいといわれています。
④ 症状の出やすい場所がある
強い痒みをともなうアレルギー性皮膚炎の症状は、足先、脇、足の付け根(内股)のほか、目や口のまわりなどによく見られます。症状が左右対称に出やすいのも特徴です。慢性化し皮膚を掻き続けることで、脱毛のほか皮膚が厚くなり、皮膚の色が黒くなる(色素沈着)こともあります。
アトピー性皮膚炎:生活に支障がないレベルまで痒みをおさえる
犬のアトピー性皮膚炎は、体質が関係しているので、基本的に治癒することはありません。犬の体質と飼主様と犬の生活を考えたうえで、さまざまな治療法を組み合わせて行います。
治療は生活に支障が出ないレベルまで痒みをおさえることをメインに、アレルゲンの回避、悪化因子を除去する、炎症の管理、スキンケアなどを行います。「どのレベルまで行うか」は犬の性格、生活環境、飼主様の生活環境などを考え、個々に決めていくため、“正解”はなく、治療のメニューはそれぞれの患者で異なります。
① アレルゲンを避ける
犬アトピー性皮膚炎を起こす原因(アレルゲン)はまだ限定されておらず、ハウスダストマイト(ダニ)、カビ、花粉など多岐にわたります。しかし、ハウスダストマイトが大きな役割を担っていることは示唆されていますが、このアレルゲンを完全に除去することは難しいのが現状です。徹底的な部屋の掃除、クッションやカーペットを使用しない、またはこまめに洗濯する、空気洗浄機を使用するなどの対策はハウスダストマイトの数を減らすといわれています。
② 悪化因子の除去
犬アトピー性皮膚炎になると、皮膚の他のトラブルである「膿皮症」(皮膚がブツブツして痒くなる)や「マラセチア皮膚炎」(べたべたした皮膚が赤く痒くなる)を発症することもあります。その場合は、獣医師の診察を受け、それぞれに必要な治療を行いましょう。
③ 炎症の管理
痒み(=炎症)を抑える治療です。犬のアトピー性皮膚炎では一般的に飲み薬(内服薬)を使用することが多いですが、薬によって副作用やコスト、飲ませる回数などが異なるため、獣医師と相談して一番合ったものを処方してもらいましょう。アトピー性皮膚炎の症状は脇の下、内股、足の指先など決まった部位だけに出ることが多いので、飲み薬を使う以外に、それぞれの症状が出ている部位だけに塗り薬(外用薬)を使うことも多く、内服薬と外用薬を合わせて使用することが多いです。最近はステロイドの全身への副作用に配慮した外用薬なども開発されています。
④ スキンケア
人のアトピー性皮膚炎同様、スキンケアは犬のアトピー性皮膚炎でも重要な役割を果たすといわています。アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア機能の異常も関与していると考えられているので、このような肌の弱い犬のために、刺激が少なく、皮膚バリアを考えたセラミドなどを配合したスキンケア製品を選ぶようにしましょう。
また最近では、皮膚の上に存在して皮膚バリアに貢献している菌(皮膚常在菌(じょうざいきん))の存在の大切さが分かってきています。この菌のバランスを整えることが人でも犬でもアトピー性皮膚炎において大事であるといわれています。このような菌のバランスに注目したスキンケア製品なども検討してみましょう。
スキンケアは製品選びも大事ですが、スキンケアのやり方も大事だと言われています。(スキンケアの中でも主体となるシャンプーの方法はこちら)
アトピー性皮膚炎は体質が関係しているため、基本的に根治することはなく、生涯付き合っていくことになります。犬と飼主様に無理がない治療を獣医師や動物病院のスタッフと相談しながら、犬と飼主様のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が保てるよう、付き合っていきましょう。